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【第8章】 『パーティ・タイム(中編)』

光かがやく 世界
まぶしい 夢つむぐよ
もう迷わずに さあ はじめよう
時を抱きしめて SunShine Dream

 ステッ。

歌が盛り上がる、サビの決めポーズで踏ん張れず、あたしは派手にすっころんだ。したたかにシリモチをついたけれど、アヤシイ痛みはどこにもなかった。うん、大丈夫!

その様子を見ていた、つくねちゃんがすぐにかけよってきて、両足の具合を心配してくれた。

「ささみっ!? 足くじいた? 大丈夫? どこか痛いところはない?」

あわわ。あたしは急いで元気な笑顔全開で安心させた。

「大丈夫だよっ☆ あはは…失敗しちゃった!」

「本当に? ガマンしてない?」

「平気平気! さー、もう一回、サビの部分練習しようよっ☆」

元気にたちあがろうとするあたしを、つくねちゃんは制止して苦笑した。

「ごめんなさい…私、夢中だったから、気づかなかったわ。…練習始めてから休憩してなかったじゃない。ちょっとお休みしましょう」

「だーいじょうぶだよー☆ まだまだ、元気一杯だよっっ!! がんばれますよーっ!」

と、ガッツポーズで決めた瞬間、あたしのおなかが派手に鳴り響いた。あはは、正直だなあ。

「あんなちゃんが戻ってくるまで、休憩ね! 戻ってきたらお昼ごはんよ。いいわね?」

「あはは…はーい☆」

改めて、すべすべの床に寝転ぶ。冷たくて気持ちいい…。

「ささみちゃん、寝ちゃだめよ?」

あう、バレてましたっっ。き、気をつけますっっ。

 ここは東京都豊島区内にある、池袋中央文化創造館という公共施設の音楽練習室。マスターが作詞作曲した『SunShine Dream』の振り付け練習のために、特別休暇をもらったあたしたちが、午前中からマスターの大判振る舞いで貸しきっていた。天井近くにある掛け時計は12時少し前だ。あたしたちのサポートをしてくれてる、あんなちゃんが「お昼の買い出し行ってきまーす!」と、出かけたのは確か11時を過ぎた頃。…あれ? 1時間近く戻ってきてない? 何かあったのかな…。と、思った瞬間、重い防音扉がゆっくりと開いた。

「ただいまー! お昼ごはんの買い出し途中で、セセリちゃんとシシトウさんに会っちゃった!」

あんなちゃんが困ったようにひょっこり現れると、小柄なセセリがあんなちゃんの腕にまとわりつき、その反対側で「もう解放してやれ、セセリ」と諌めるクールビューティで眼鏡っ子のシシトウちゃんがいた。

「あっ! ささみん、みーっけっっ☆」

ダダダダっ。ポニーテールを可愛く右に左に動かしながら、セセリが駆け寄ってきて、Tシャツにジャージ姿のあたしに抱きついてきたっ。

「…セセリ、抱き癖まだなおらないの? ささみちゃん、困ってるでしょ?」

同じくTシャツにジャージ姿のつくねちゃんがあきれたように苦笑した。

「だってだってっっ、ささみん、抱き心地いいんだよー☆ …持ってかえっていい?」

「はい、終了!」

「ふんぎゃー」

シシトウちゃんが、セセリの襟首部分の服をつかんで無理やりあたしからはがされた。その様子をあんなちゃんが、どう振舞っていいのか困っているようだ。あたしはフォローいれた。

「あんなちゃん、気にしないで。セセリはいつもこうだから。そのうち慣れるからっ☆」

「そーそー!」

ぎゅうううっ。あたしのフォローに相槌いれたセセリが、今度はあんなちゃんに抱きついた。あー、そのくらいにしとかないとシシトウちゃんのゲンコツが頭に落ちちゃうってばっ、セセリ!

 セセリとシシトウちゃんは、焼き鳥屋「乙女塾」のバイト店員仲間で、あたしたち四人は『「乙女塾」の四天使』と呼ばれている。もちろん、あたしたち以外にもバイトの子はいるけれど、専用ネームをもらってるのは、あたしたちだけで、他の子はみんな「鳥」の字がついた苗字を(他の誰かと重複してなければ)自由に選べる仕組みになっている。あたしもバイトに入った頃は「ささみ」ではなくて、名前をもらうまでは「鳥居」って苗字だった。つくねちゃんも名前をもらうまでは「水鳥」って苗字で働いていた…当然、あたしもつくねちゃんも本名とは違うけど。

 「乙女塾」でリーダー的存在だけが「ささみ」「つくね」「セセリ」「シシトウ」の名前を受け継いでいく。ちなみにあたしは八代目のささみで、つくねちゃんは七代目。バイトを辞めると空席になって、次の後輩から、また誰かが名前を受け継ぐという仕組み。制服のメイド服も、この四人のものだけは特別で、仕事の邪魔にならない程度に背中部分に小さな翼がついてる。リーダー専用のメイド服で、バイトの子たちも含めてお客さんからも可愛いと言われる人気制服。「四天使」と名づけられた由来でもある。

 年齢的にはシシトウちゃん、つくねちゃん、あたし、セセリってことになるけど、気心のしれた仲間意識が強くて、四人が四人、いつの頃からか「好きなように、話しやすい言葉で☆」会話してた。

 そのリーダー的存在のつくねちゃんとあたしが、(マスターのお願いであったとしても)店番をお休みしているんだもん、シフト調整で大幅に出勤が増えたセセリとシシトウちゃんには負い目を感じてた。二人は「マスター命令じゃあねぇ…」ということで、了承してるみたい…だけど、どうやらマスターはこの二人にも「特別手当」をはずんでいるっぽい。「今度のお給料が楽しみで仕方がない」「だよねっっっ!!」と、言いながら二人そろってにこやかすぎる…そんなに趣味に投資して「乙女塾」大丈夫かなあ、なんて、ちょっと心配になってきちゃったりもするけど…マスターのことだから大丈夫だよねっっ。あはっ、はははっ。

「ささみん! 振り付け、マスターできたっ?」

出勤前の二人もまざって、お昼ごはんをみんなで輪になって食べながら、セセリが致命的一打を、あたしに浴びせてきた。

「あはは…あたし、創作ダンス苦手だからなあ」

「でも、飲み込みは早いほうだと思いますよ!」

あんなちゃんがフォローしてくれた。ありがとおっっ、あんなちゃんっっ! …でも、つくねちゃんとシシトウちゃんの前では、アリと巨人ぐらい、格差を感じます。うぅ…。

「まだ、覚え切れてないのか? 簡単で覚えやすいはずなのに…つくねはもう完璧だろ?」

はうあっ。シシトウちゃんの一撃もクリティカルですっっ。身体能力抜群で、創作ダンスは一度通しで振り付けこなしたら、フルコンプできるなんてありえないっっ! それが可能なシシトウちゃんに代わってほしいところだけど…。

「シシトウは、歌がねぇ…」

つくねちゃんが苦笑しながら言葉を濁した。けれどそれだけで十分、シシトウちゃんがつまった。そうなのだ、シシトウちゃんはおそろしくすさまじい音痴だ。あたしがとてつもなく同情してしまうほど、悲劇的に。絶対、口にださないと堅く誓った思いの一つだ。

「じゃあ、歌はセセリが担当してあげるっ☆」

セセリの歌声はまさに、つくねちゃんの歌唱力をも越えるイキオイの絶対音感だ。しかもメロディの「遊び」も変幻自在で、どんな歌でもハモれるという特技をもっている。けれど…。

「お前は、運動神経ゼロだからな」

シシトウちゃんが、いつもの口調でつぶやいたつもりだったけれど、その破壊力はセセリのスイッチが切れたようで、一瞬、動きがとまり、極刑の宣告を受けたかのようにうなだれた。けど、次の瞬間、何もなかったように話題を変えてた。

「つくねちゃん、衣装はできたの?」

「一応、ね。でも、炎天下のメイド服だと暑苦しいと思うから、白を基調にして生地にメッシュを盛り込んだり、アンダーが見えないように、私はパステルピンク、ささみがマリンブルーの生地を混ぜ込んだわ」

「あたしもお手伝いしたんですけど、袖口とか、ところどころに刺繍が入っているんですよ! つくねさんはシルバーで、ささみちゃんはゴールド! 綺麗だったなあ…」

うっとりしているあんなちゃんが、目を輝かせて感想をもらした。でも、仮縫いでサイズチェックしていたときの、あんなちゃんの落ち込みようにどれほど困ったことか…。

「ささみちゃんって、着やせする人だったんですねぇ…超をつけてもいいくらい、スタイル抜群じゃないですかっっ」

うわ、やっぱりまた思い出されてしまったっっ。

「バイトの制服は確か、つくねがささみ専用に仕立てたんだったな」

シシトウちゃんが、思い返すようにつくねちゃんに尋ねる。

「アルコールを扱うお店では、女の子のスタイルは『適度』に調整しないとダメです。トラブルの原因になりますもの」

そのつくねちゃんが仕立てた服は、スタイルが強調されず、身ごなしが抜群で可愛い上に動きやすい。予備も含めて四着を三日で仕上げてきたのは、とっても洋裁が好きなんだなあ…って、思った。

光かがやく 未来
ときめく 夢つむげる
もう迷わずに さあ はじめよう
愛を抱きしめて SunShine Dream

セセリが『SunShine Dream』の二番のサビの部分を歌い始めた。いい曲だなあと思う。もともとソロボーカル用の歌詞を、ツインボーカルにして、ハモり部分や、ソロパートを盛り込んでアレンジしたりの豪華バージョンだ。セセリがマスターから許可をもらって作り直したこの歌と、つくねちゃんの衣装、シシトウちゃんの可愛い振り付け、それにあんなちゃんの献身的なサポート…みんなのひたむきな気持ちに答えたいっっ。あたしが…あたしさえ完璧にこなすことができればっっ!! 間違いないっっ、いいところまでは狙えるっっ!!!! コピックげっちゅも夢じゃないっっ!!

がんばらなくっちゃ! あたしが…もっと、もっとっ、がんばらなくっちゃっっ!

「さあ『つくさみ』の練習再開、だよっ! つくねちゃん!」

あたしはお腹の充電も完了したし、満面の笑顔でつくねちゃんにガッツポーズを作った。

 つくねちゃんと、あたしのユニット名『つくさみ』だ。 …つくねちゃんの最初の二文字と、あたしの最後の二文字を足した名前。

「名前は、ささみちゃんが考えてもらえる?」

つくねちゃんからの要望で、単純だったけれど、あたしが精一杯、覚えやすくて可愛いものにしたいと願って名づけた。つくねちゃんも喜んでくれた。それが何より嬉しかった。

 絶対、いい思い出にしたいっ! あたしはホントにそう思った。

 このとき、みんなに隠していたことが、まさか最悪の結果につながるなんて…あたしはわからずに、夢中だった…。

(後編に、つづくっっっ!!!!)

(*この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などにはいっさい関係ありません)

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