【第4章】 『おかえりなさいませ・池袋』 (池袋サンシャインDAY・2)
○雑司が谷 焼き鳥屋「乙女塾」店前
店の前に立つ正樹とあんな
あんな「ねえ…正樹、先輩」 正樹「なんだ?あんな?」 あんな「ここ、焼き鳥屋さんなんですか?…なんか…なんかあれというか」 正樹「どうした?何かおかしいとこあるか?言ってみろ」 あんな「思いついたところで3つ。何故ショーウィンドーにゴシックロリータと呼ばれる服が飾ってあるのか?何故『いらっしゃいませ』ではなく『おかえりなさいませ、ご主人様』という貼り紙が貼ってあるのか?…しかも達筆な筆書きで。そして何故、店の名前が『乙女塾』というおおよそ焼き鳥屋と名乗るには程遠いものであるのか?」
店の引き戸を開ける正樹
ささみ&つくね「おかえりなさいませ、ご主人様ー」 正樹「期待していいぞ。中身も似たようなもんだ」 あんな「…」
○雑司が谷 焼き鳥屋「乙女塾」 店内
店内に入る正樹とあんな。焼き鳥を焼く音が聞こえる。
山崎「おかえりなさいませー。あ、ああ?マサちゃん、おかえりなさい(はぁと)」 正樹「よぉ、マスター。相変わらず繁盛してるね」 山崎「そうなのよぉ、忙しくて困っちゃうー。ふふふ、ふふ(♪)」 正樹「あの潰れかけてた焼き鳥屋がよくぞここまで…やっぱり石本の若頭は切れもんだな」 山崎「ほんとよねー♪商才あるわ、あのコ。ヤクザにしとくのは勿体ないわ…ああ、ちょっと、ささみちゃん?」 ささみ「あ、はーい」
山崎に駆け寄るささみ
山崎「腕、ひじのとこ。トーンの63番の切れ端がついてるわよ」 ささみ「あ、ほんとだ、すみません」 山崎「ほら、タイも曲がってる。(タイをなおして)…よし、いい、女の子は外見も大事なの。服装の乱れは心の乱れ、いい?」 ささみ「はい!」 山崎「それと、影は62番。ベタフラッシュは控えめに。訴えたいシーンがあっても濃すぎる演出は読者には届かない!」 ささみ「マスター!な、なぜそれを!」 山崎「心の乱れはネームの乱れ。私はなんでもお見通しよ。さぁお行きなさい、ささみ!今は接客の時間よ!」 ささみ「了解です、マスター!」
3番テーブル席
つくね「おまたせしました、ご主人様。塩の盛り合わせと瓶ビールでーす」 溝口「ああ、悪いね、つくねちゃん」 つくね「…あれ?溝口さん、元気ないですね…どうしたんですか?」 溝口「ああ…ちょっとね。家に帰りたくなくてね」 つくね「ええ、どうして?前は母ちゃんは綺麗だし娘は可愛いしマイホームサイコーって言ってたじゃないですか」 溝口「ううん…ちょっとね、その娘が高校の受験を控えて神経質になってんだ。家に帰るなり、しけた顔見せんなジジィ…なんて…はぁ…昔はあんなに懐いてくれたのに」
瓶ビールをコップに注ぐ、つくね。
つくね「ああ、わかります!私も高校受験の時は荒れてました。未来が見えない不安っていうんですか?今思うと小さいことで悩んでたなぁって笑っちゃいますよ?…そうそう、私もお父さんに散々当たり散らしたっけ…今思うと懐かしいな。あ、今はお父さんと仲良しですよ(笑)」 溝口「…へぇ、つくねちゃんにもそんな時期があったんだね」
コップを置いて
つくね「溝口さん…私で良かったら相談に乗りましょうか?同世代の女の子の悩みなら、ある程度お答えできますよ?」 溝口「ほんとうかい?…すまないね。じゃあお言葉に甘えようかな」 つくね「かしこまりました。(カウンターに向かって)3番テーブル『家庭の愚痴』入りまーす!」 山崎「はぁーい」
あんな「ほんまもんや…ほんまもんのサービスがここにある…」 山崎「おっとっと、マサちゃん、カウンターでいいかしら?いま空けるわね」 正樹「ああ、すまないね」
椅子を動かす山崎。隣の席でつっぷしていた遊人が目を覚ます。
遊人「(目を覚まして)ん、おお、…すんません…寝ちゃった…(正樹と目が合って)ああ、お前!いかれ時計屋!」 正樹「おや、誰かと思えば、渋谷遊人ちゃんじゃないかい?」 あんな「知り合いなんですか?先輩」 正樹「池袋署の署長だよ」 あんな「ええ?署長さん!すごーい」 正樹「そうそう、すごいの。もっとも今は社会の荒波に揉まれてサンシャインシティの平和な乙女ロード地区を散策するのが仕事らしいけどね」 遊人「ううううるさい!僕を馬鹿にするな!これでも国立出のキャリア組だぞ!公務執行妨害で逮捕するぞ!」 正樹「はいはい、エリートさん、思いつきで物騒なこと言わないの。…どうしたい、えらく荒れてるじゃないか?」 遊人「誰のせいだ、まったく!お前といい石本といい…いつもいつもお前らにかき回されて、キャリアの面子がズタズタだよ!とうとうこの僕が、このキャリアの僕が、人形探しだぞ?馬鹿にしやがって!」 正樹「人形探し?」 遊人「アルテミスだよ!サンシャインシティの時計台の時報人形!あれが盗まれたんだと」 正樹「…アルテミス?アルテミスが盗まれたのか?」 遊人「(自信なく)…いや!盗まれたかわからないけど…人形だから歩けるわけないし…盗まれたとしか…。僕にもわからないよ。きっとどっかの熱狂的なファンが連れ出したんだろ?どうでもいいんだ。もともとあそこは本庁の管轄なんだ」 あんな「本庁?え?だって、池袋でしょ?署長さんの管轄じゃないんですか?」 遊人「…まぁ、民間人が知らないのは当然か。今のサンシャインシティは特別なの。ある意味試験的な都市計画だから偉い人がいろいろと複雑に絡んでてさ。とはいえ…面子を保つためにウチからも誰か出なきゃ、署長頼みますよ、どうせヒマでしょ?…ふ、ふ、ふ…ふざけるなー!僕は署長だぞ!部下が上司に命令するなー!僕はキャリアだぞ!キャリアなんだー!」 あんな「あちゃー、すっかり出来上がって…あれ?…先輩、どうかしたんですか?」 正樹「ああ、いや。なんでもない。…アルテミスの歌声は雑司が谷まで聴こえるからな。それがしばらく聴けないとなると寂しいなと思っただけさ。それより、あんな、今日はタダメシにありつけそうだぞ?」 あんな「…え?」 正樹「おーい、ささみちゃーん!」 ささみ「はーい!なんでしょう?ご主人様」 正樹「こちら、乙女ロード地区の平和を護る偉い署長さんなんだ」 ささみ「えええ、まじっすか?それまじっすか?」 遊人「え?ああ、まぁ…広い意味では…うそではないが…」 ささみ「すごーい!所轄の署長っすか?尊敬しちゃうなぁ」 遊人「…尊敬?…僕が?」 ささみ「あったり前じゃないすか。本店に啖呵切ったりするんでしょ?『うちの部下をなんだと思ってるんだ、馬鹿野郎!』って」 遊人「え?ああ、まぁ…たまにはわね。たまにだよ」 ささみ「まじっすか!?うわぁ、聞きたいなぁ!教えてくださいよ、署長って普段どんなことやってるんですか?気になるなぁ(←どうやらこいつの新刊は刑事モノらしい)」 遊人「聞いてくれるの?僕の話、聞いてくれるの?…本当、本当かい?…いや、普段は大したことはないんだよ、その辺はサラリーマンと変わらないというか、でもいざ事件が起こったら俺達は命がけで、そう!命がけで(続けられるならアドリブでクダ巻いてください)」
手を叩く正樹
正樹「はいはーい。カウンターのお客様『現場の愚痴』入りマース、遊人君のごちになりまーす」 山崎「はぁーい、毎度ありー」 遊人「おらー!焼き鳥でも酒でもじゃんじゃんもってこーい、俺ぁ署長だぞー!!」 正樹「あんな、食えるときに食っとけ。それと偉いやつにたかれ。それがこの街のルールだ」 あんな「先輩…容赦ないね」
○中川時計店 店前(夜)
家路につく正樹とあんな。へべれけになった遊人を抱えてあるく正樹
遊人「いいかぁ!?事件は会議室なんだ!俺はキャリアのひよっこじゃねえんだぞ、村木ぃ!年上だからって署長に命令すんなぁー!くそぉー偉いんだぞ俺はー!」
※村木という名前は遊人役の先輩の名前でもどうぞ(笑)
正樹「はいはい、えらいね、えらいね…よしよし、よぉしよし」 遊人「えらいんだー!子ども扱いするなーぐぉおお(寝)」 正樹「おおい!急に寝るな、もたれかかるな、重い、重い!」 あんな「相当酔ってますね…署長さん(汗)」 正樹「ったく…こんなんで署に戻ったら部下にどやされんぞ?…しょうがない、ウチで寝かせていくか…まったく、世話のかかる署長だことで」 あんな「…ふふ、なんだかんだいって優しいんですね、先輩」 正樹「まぁ、こいつ言うとおり、俺や石本のせいで肩身の狭い思いをしてるのは本当だしな。この辺で恩返しでも…(よろけて)おっとっと…」 あんな「わっ、ちょっ、大丈夫ですか?先輩」 正樹「…おお、まずいな、俺もちょっと飲みすぎたか…とと。まぁ、今夜はあんなの歓迎会も兼ねてたからな、めでたいことは盛大にやっとかないと、とと」 あんな「…」 正樹「…ん?どうした?あんな?」 あんな「…歓迎されてますか?」 正樹「ん?」 あんな「私、先輩に歓迎されてますか?」 正樹「…」 あんな「…それとも、迷ってますか?自分と深く関わったら不幸になるかもとか、そんなこと考えてませんか?例えば…そう、お兄ちゃんみたいに」 正樹「…あんな…お前」 あんな「ああ!何があったなんか知りませんよ?ただなんとなくそんな感じかなーって、乙女のカン?」 正樹「…」 あんな「今考えると、いなくなる前のお兄ちゃん、なんかおかしかったなーって思うんですよ。きっと人と違う力を持ってると心にも負担がかかるんですかね?」 正樹「…そうか。やっぱりお前も力を持っていたんだな?」 あんな「ああ!いえ!私のはお兄ちゃんみたいに凄くないです!時計だけですよ。お兄ちゃんも知らなかったんじゃないかな?」 正樹「時計だけ?」 あんな「…ええ、たぶん時計だけだと思います。それも時計と話せる程度のしけたもんです(笑)。だから人に威張れるほどのもんじゃないです。…でも凄いと思いませんか?時計だけですよ!ピンポイントで!」 正樹「…ん?」 あんな「だって、まさに先輩の仕事のお手伝いするためにある力じゃないですか?これってタダの偶然じゃないですよ、きっと」 正樹「…」 あんな「今まで先輩に何があったか知りません。言いたくないなら教えてくれなくてもいいです。…でも、これからのことは二人で考えましょう?私、一生懸命ついていきますから」 正樹「…あんな」 あんな「…ね?」 正樹「…すまんな」 あんな「えへへ…。…というかぁ…」 正樹「?」 あんな「女子高生にヤクザと爆弾を見せた時点で、もう普通じゃないですよぉ?」 正樹「…え?あー…そういうもんなのか?」 あんな「自覚、なし?…もしかして、先輩の過去ってそれ以上の…?」 正樹「…」 あんな「えー!!何故そこで黙るうううぅぅぅ!?…どうしよう…私ちゃんと先輩についていけるかなぁ…」 正樹「あっはっは!大丈夫だって!俺が面倒みるからには、あんなを危ない目に…(店前の扉を見て)…ん?」 あんな「ん?どうしたんです?」 正樹「あんな…俺、出かける前に鍵かけたよな?」 あんな「え?ああ、たしか」 正樹「…鍵が、空いてる?」 あんな「え?本当ですか?誰だろ?お客さんですかね?」 正樹「…いや。…あんな、これ頼む。お前はここで待ってろ」
あんなに遊人を渡す正樹。店内へ静かに入っていく。 あんなにもたれかかる遊人
あんな「え?え?先輩…ちょ!ちょっと署長さん、お、重いぃぃ」 遊人「はけー、さっさとはいちまえ。はかないなら…僕が吐くぞ…おろ、おろろ…」 あんな「!!いやー!はかないでー!!」
○中川時計店 店内(夜)
店内に忍び込む正樹。店内は真っ暗である。 (シーン補足) 店内にはアルテミスが潜んでいる。火薬の臭いは三話の伏線であり、アルテミスに仕込まれた爆弾である。それを正樹は拳銃の薬莢の臭いと勘違いした。アルテミスは自動歩兵のプロトタイプであり、拳銃を構えた正樹を敵と認識して戦闘モードに切り替えて応戦する。アルテミスの武器は店内で拾った鉄パイプであり、アルテミスの体内電池を使って電磁警棒とした。
正樹の声「間違いない…暗がりの中、わずかに火薬の臭い…爆弾か?いや、人間ひとつ分の気配がする…人がいるということは…拳銃か?…用心に越したことはないな」
着物の袖から銃を取り出す。
正樹の声「…誰だ?石本がらみか?それとも…。どちらにせよ…石本組の見回りをかい潜れるほどの…」
カタッと物音がする。 物音の方に銃を構える正樹。
正樹「!?誰だ?出て来い!いるのはわかってる!抵抗しないなら撃たない、保証する。さぁ銃をこっちに」 アルテミス「(機械的に)拳銃の所持を確認。危険人物と断定。迎撃します」
暗闇の中、バチッと青白い電気の火花が走って正樹を襲う。
正樹「なっ!くそっ!」
火花を見てよける正樹。鉄パイプが空を切り、店内の時計に当たり派手に壊れる。
正樹の声「電磁警棒!?銃を使わない?何故だ?」 アルテミス「(機械的に)回避されました。迎撃を続行します」
いくつも青白い火花が散る。よける正樹。店内のモノが壊れる。
正樹の声「くそっ!なんで暗闇でも俺の位置がわかる!?」 アルテミスの声「意外としぶとい!でも、とらえた!そこっ!……ん!?いやっ!エネルギーが…立っていられな…い」
ドサッと倒れるアルテミス。鉄パイプが床に落ちる。 引き戸をあけ店内に駆け込むあんな。
あんな「先輩!今すごい物音が!?大丈夫ですか!」 正樹「馬鹿野郎っ!くるなっ!あんな!!」
あんなはパチッとスイッチを捻り、店内の灯りをつける。
正樹「(まぶしくて)うっ!」 あんな「わっ、まぶしっ…え?ええ!?ひどい!店内がめちゃくちゃ…(アルテミスに気づいて)…え?にん、ぎょう?」 正樹「…アルテミス…」
アルテミスの声「(うなされて)助けて…胸が痛いの…助けて…お父さん」
○エンディング曲
○ネオサンシャンシティ 時計台(夜)
静かなビル風が吹く時計台。武が座っている。 時計台と話す武。
武「んん、良い景色だ。それに風が心地いい。夏なのにここは涼しくていいね。…さぁて、彼女は無事たどり着いたかな?町の人に迷惑がかかるから、途中で壊れていなければいいけど、なんてね(苦笑)」 時計台「…」 武「…ええ?いやだなぁ、そんなに不機嫌にならなくてもいいじゃないか。キミの相方をいじったことは謝るよ、ごめんて。…でも彼女は僕らにとっても少々思い出のあるモノなんだ。伝言を頼むには彼女しか思いつかなかった、許しておくれ」 時計台「…」 武「…さぁて、感動の再会となるか、今生の別れとなるか。…期待しているよ、正樹」 (To be Continued…)
(*この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などにはいっさい関係ありません) |