【第5章】 『さようなら・池袋』 (池袋サンシャインDAY・3)
○サンシャインシティ 時計台周辺(夜)
広場を歩く人々。建物の影から時計台を見張る黒服でサングラスの男。耳には無線通信用のイヤホンをつけている。
SP1「こちら、α‐1。アルテミス時計台の指定地点に着いた。オーバー」 SP2(無線)「こちら、β‐1、了解。ターゲットは目視できるか?オーバー」 SP1「いや。まだ時計台の上にいるようだな。α‐2を向かわせた。オーバー」 SP2(無線)「一人でか?軽率だぞ?ボスには充分気をつけろと」 SP1「なぁに、おかしな力を持っているとはいえ生身の人間だ。俺達はプロの掃除屋だぜ?」
○サンシャインシティ 時計台屋上(夜)
ビル風が吹く時計台の屋上。 SP3がアポロン改に吊るし上げられ、
武「…良い風だ。夜景も素晴らしい、ここは落ち着くねぇ」 SP3「う…ぐ…ううう…今井…武ぃ…」 武「君達?見張るならもっとこっそり見張ってくれない?(アポロンを見て)アポロン」
アポロン改に投げ出されるSP3
SP3「ぐはっ!…あ、アポロンだと!どこでこいつを?」 武「彼かい?まぁ古い友人なもんでね。ちょっと壊れて動けなくなったから助けてあげたのさ。…それより、ねぇ、サンシャインの連中にも伝えてくれないかい?僕の周りをうろちょろしないでくれと。…黒いのが視界に入って目障りなんだよ。そうゴキブリみたいで」 SP3「この…なめやがって!殺してやる!」
銃を構えるSP3.アポロン改が駆け寄りSP3を蹴る。銃が転がる。
SP3「ぐはっ!…(殴られて)…がはっ!…(殴られて)ごっ!」
武「アポロン!その辺でやめておけよ。人間は壊れたら直せないんだ、片付けが面倒だろ?」
殴るのをやめ、SP3を放り投げるアポロン改。
武「…さぁて…正樹、君のほうはどうだい?」
○オープニング曲
○(回想)穂富(中川)時計店
洋服姿の中川正樹が店内に顔を出す。 ※可能なら回想を強調するため、編集で変化をつけてください。
正樹「師匠ー!師匠ー!」
引き戸を開けて店内に入る正樹。
正樹「穂富師匠ー!」 穂富「…正樹、また来たのか…こんなしけた時計屋に顔を出すたぁ、お前も相当暇だな」 正樹「つれないこと言わないで下さいよ。それより、これ見て欲しいんですが」
設計図を広げ、穂富に見せる正樹。
正樹「アルテミスと時計台をリンクするモジュールなんですけどね…理論上ではこれでいいはずなんですが…」 穂富「…ほう…こいつは…。よぉ、こいつはお前さんが考えたのか?」 正樹「ああいえ、俺は手伝っただけで。ほとんどは武が」 穂富「武…あの小僧か」 正樹「武は力はどんどん成長してますよ?機械なら触るだけで会話もできるそうで。…でも、流石にこいつの動力炉の構造は複雑すぎて、制作者の力を借りようってことで」 穂富「ほっほっ、小僧らもまだまだということか。…とはいえ。時代の流れが早くなったのか、それとも神様の気まぐれか。…なぁ、正樹よ…時計の針はな、戻らねえんだ。進むことは出来てもな。だがな、壊すのは意外と簡単なもんさ」 正樹「…はい?」 穂富「老いぼれの独り言よ。そのうちわかる日がくる。せいぜいコツコツ頑張りな。…さて、ワシは石本の爺と囲碁でもしてくるかな」 正樹「ああ、ちょっと。師匠?師匠ー!」
○中川時計店 (夜)
破片で散らかった店内。あんなが片付けをしている。物思いにふける正樹。
あんな「…ふぅ、片付いたと…先輩、先輩?…正樹先輩ってば!」 正樹「え!?あ?ああ、あんな…どうした?」 あんな「どうした?じゃないですよ。片付け終わりましたよ?こんなもんでどうですか?」 正樹「あ、ああ、すまんな。ちょっと惚けてた。ああ、いいんじゃないか?」 あんな「…?。それにしても…アルテミス、ただの人形じゃなかったんですね」 正樹「…」 あんな「…正樹先輩?」 正樹「…アルテミスはな、俺の師匠が作ったんだ」 あんな「え?」 正樹「俺の師匠、穂富東午が作った。時報の歌を歌うだけの人形じゃない。サンシャインシティをコントロールする人工知能搭載型インターフェースなのさ。きっと調子が悪くなって師匠を訪ねてきたんだろう。…多分、俺じゃ治せない」 あんな「…」 正樹「…これ以上は話せない。あまりお前にサンシャインのことを話したくないんだ」 あんな「…無理しなくていいですよ。私はここにいられるだけで充分ですよ、へへ。…さぁて、このコはどうしたもんかなぁ。朝になったら店先で寝てる署長さんに連れてってもらうとして…どこか寝かせておける場所は…ううん…機械だから重いのかなぁ…あれっ?」 正樹「どうした?」 あんな「今、ピクッて動いたような…気のせいかな…うわっ、このコの手すべすべでやわらかーい…うう、うらやましいぃ」 アルテミスの声「…苦しい」 あんな「…え?」
除々に大きくなる時計の針の音(イメージ)
アルテミスの声「…胸が苦しい…」 あんな「…アルテミス?あなたの声?時計じゃないのに?どうして声が?」 正樹「…時を歌う…『時報人形』」 あんな「アルテミス?どうしたの?胸が苦しいって、どこかおかしいの?」 アルテミスの声「…胸が…胸が苦しいの…助けて…お父さん!…ッ!」
カチッという音が店内に木霊する。
あんな「…え?なんの音?」 正樹「わずかに火薬の臭い…まさかっ!あんなっ!」 あんな「は、はいい!?」 正樹「アルテミスから手を離すな、いいなっ!」
アルテミスの服を破る正樹。
あんな「ちょ、ちょっ!先輩!人形だからって女の子なんですから、乱暴は」 正樹「(アルテミスの胸に手をあて)間違いない、この振動音…時限式!人間の体温を感知してスイッチが入る仕組みか…手の込んだマネを…武!」
○サンシャインシティ 時計台屋上(夜)
ビル風が吹く時計台。
武「ん?落ち着かないね、どうしたの?…ああそうか、君と彼女は繋がっているんだったね、時計台くん…そう、ゲームが始まったんだね?…大丈夫だよ。正樹なら、これくらいどうってことないはずさ」
○中川時計店 (夜)
アルテミスの爆弾を解体する正樹
正樹「あんな!アルテミスの手をはなすな!?はなしたら爆発するぞ!」 あんな「せ、先輩ぃ!」 正樹「大丈夫だ、俺が…俺が助けてやる。俺が…!?…こいつは」
正樹の声「時限装置と動力炉がつながってる!?…くそっ、どうりで火薬の量が少ないと…本命は動力炉の誘爆!?…やってくれたな!」
○サンシャインシティ 時計台屋上(夜)
武「正解…カウントダウン、スタート!」
武、指をパチンとはじく
○中川時計店 (夜)
※「アルテミスの声」の方は機械的に。
アルテミス「動力炉に異常発生。理論値を超える発熱を確認」 アルテミスの声「ううう、ああ!あつい!あついー!」 あんな「先輩!アルテミスが!アルテミスが!」 アルテミス「警告。60秒以内に爆発の可能性あり。防壁による隔離、半径50m外の退避を推奨します」 アルテミスの声「いや!いやぁあ!」 あんな「先輩!先輩!」 正樹の声「くそっ、どうしたらっ!」 あんな「先輩!……えっ!?…なに、アルテミス!?……難しいよ!もっかい言って!アルテミス!?」 正樹「あんな?」 あんな「…お父さん、言ってた?7番ユニット?は取り外しても平気?まるごといいの!?…先輩!」 正樹「…わかった!」
解体を続ける正樹 ※アルテミスのカウントは正樹達の台詞にかまさず編集で調整求む。
アルテミス「警告。誘爆まで30秒」 正樹「これだな!あんな、次は!?」 アルテミス「15秒前」 あんな「右から3番目のバイパスを外すと?電源供給が?止まるの?ディップスイッチを2番、3番、5番オフ?あとは基盤ごと外していいのね?…先輩、早くっ!」 アルテミス「10秒前、9、8、7、6、5、4…」 正樹「う、うぉおおおお!」 アルテミス「3、2、1……」
パチッという音
正樹「…止まった…か?」 アルテミスの声「あう…うう…」 アルテミス「異常が回避されました。システム再起動後、セーフモードにてリカバリーチェックを行います」
ブゥンとアルテミスの電源が落ちる。
正樹「…ふう…」 あんな「…よ、よかったぁ…へへ。私、役に立ちましたか?…先輩…(気を失い倒れる)」 正樹「あんな、あんな!」
○サンシャインシティ 時計台屋上(夜)
ビル風が吹く時計台。武が中川時計店の方を見下ろして、
武「…ゼロ。爆発しない?すごーい、正樹やるぅ!…さぁ、おいで。僕はここだよ?ここで待ってるよ?この。思い出の場所でね」
○中川時計店 店内(夜)
正樹が寝ているあんなに布団を被せ、
正樹「あんな…力を使いすぎたか。無理をさせちまったな…よしよし」 あんな「(髪を撫でられて、眼を覚まさずに)う、ううん…」 ※あんなの台詞はふわっと、クロスフェード気味で。 あんな(回想)「今まで先輩に何があったか知りません。言いたくないなら教えてくれなくてもいいです」 あんな(回想)「でも、これからのことは二人で考えましょう?私、一生懸命ついていきますから」 正樹「(髪を撫でながら)一生懸命ついていく…か。あの時から髪伸ばしてたのか、女らしくなるために?約束を守るために?…馬鹿だな…本当に…馬鹿だな」
○(回想)中川達の故郷の大学 敷地内
田畑と田舎道に囲まれた敷地内。ゼミが鳴く。 木々に挟まれた校舎へ続く道を、中川正樹(18)がノートをうちわに仰ぎながら歩く。
構内放送「学生自治会からお呼び出しします。工学部、原田研究室の若山さん。工学部、原田研究室の若山さん。サークル棟までお越しください(繰り返し)」
正樹「はぁ…暑いねぇ…温暖化はついに北の片田舎までやってきましたかい…こんなんじゃあえて地方の大学を選んだ意味ないなぁ…まったく…ん?」
正樹が見上げると木の枝にあんな(8)が立っている。
正樹「おおい?そこの座敷わらし?木登りすんな?落ちたら怪我すんぞ?」 あんな「(無視)」 正樹「…おいおい無視かい。おおい、降りてこいよ?危ないぞ?」 あんな「(無視)」 正樹「(ぼそっ)見えてんぞ…ネコパンツ」 ※イチゴパンツかまよった。(著者談) 飛び降りる、あんな。正樹の顔目掛けドロップキック。
正樹「ぶっ!」
スタッと両足で器用に着地する、あんな。
正樹「がはっ、眼がっ!?眼がぁ!?馬鹿野郎、俺を踏み台にしたな!?…あぶねっ、眼鏡割れたらどうすんだ!」 あんな「ロリコン、スケベ、オヤジ」 正樹「あほぅ!オレはロリコンでもスケベでもオヤジでもないわ!…それよりお前、こんなとこで何してんだよ?」 あんな「兄ちゃんが遊んでくれないから木登りしてた」 正樹「兄ちゃんって…ここの学生か?」 あんな「学生じゃないもん『とくたいせー』だもん。『とくたいせー』は遊んでくれないから嫌いだい」 正樹「特待生?…まぁいいや。だったら友達と遊べばいいじゃないか?いんだろ?学校の友達とか」 あんな「今井さんちのあんなちゃんは親がいなくて変だから遊んじゃだめなんだってさ、ちぇっ」 正樹「今井…?お前、今井武の妹か?」 あんな「おじさん、兄ちゃんのこと知ってるの?」 正樹「おじさ…。いや、工学部の今井武は有名人だからなぁ。…この時間だと研究室か。しょうがない、連れて行くか。ほら、一緒にこい?」 あんな「ダメ。知らないおじさんについてっちゃいけないって、小出先生が言ってた」 正樹「おじさ…あのなぁ…。じゃあどうしたらいいんだよ?」 あんな「(即答)結婚して」 正樹「…ぶっふぁっ!…はぁ!?結婚っておまっ、どういうことかわかってんのか?」 あんな「知ってるもん。結婚したら家族でしょ?家族なら一緒にいてもいいんでしょ?知らない人じゃないもん」 正樹「…(あんなを感根深そうに見て)…お前、変わってるなぁ…」 あんな「よく言われる」 正樹「…わかった。結婚してやろう」 あんな「ほんと?おじさん」 正樹「ただし、条件がある。まずは女らしくなれ。女らしくなったら結婚してやる」 あんな「どしたら女らしくなるの?、おじさん?」 正樹「…難しいこと言ってもわからなそうだな、こいつ…。そうだなぁ…カタチから入るか。まずは髪でも伸ばせ。そしたら少しは女らしくみえっから」 あんな「うん、わかったよ、おじさん」 正樹「…それから貴様、お兄さんと呼べやこら」 あんな「兄ちゃんは2人いらない」 正樹「…こいつ。…そうだなぁ…『正樹さん』も違う気がするし…まぁ…ひとまず…」
○中川時計店(夜)あんな「(寝言)正樹…せん…ぱい…」 正樹「…すまんな…やっぱり俺には約束、守れそうにない」
立ち上がり、襖を開け部屋を出る正樹。
○中川時計店 店前(夜)
引き戸を開けて外に出る正樹 ※穂富の声は正樹の幻聴。
穂富「よぉ、正樹。答えは見つかったか?」
拳銃に弾を込める正樹
穂富「そいつが答えか?」 正樹「過去が追いかけてきた。今回は振り切れそうにない」 穂富「お前もついてないな、過去と未来が同時にやってくるとは」 正樹「もともと俺には無理だったのさ。武のように特別な力もない。師匠のような才能もない。コツコツやれば手に入るかと思ったが、やっぱりなかった…俺に未来を護る力は。少しだけ楽しい夢が拝めた気がする。それで満足だ…。『時計の針は戻せない、壊すのは簡単だ。さて俺はどうしたい?』…答えは出たよ、師匠。壊せばいい、気になるもの全部」 穂富「…まぁ、それもいいだろう。せいぜい悩め、苦しめ。そして、すすめ、若人よ」
店を後にする正樹。
○あんなの家 夢(夕) ※回想と夢の狭間
※あんなの家は正樹たちが通っていた大学がある田舎である。今井家ではない、正樹達がお世話になった教授の家。武達がサンシャインの研究に関わって忙しいので預けられている。 田舎の一軒家。廊下の電話が鳴る。あんなが駆けてきて電話を取る。
※正樹は受話器越し。
あんな「はい、原田です。…もしもし?」 正樹の声「…」 あんな「…あれ?もしもし?もしもし?…どなたですか?」 正樹の声「…俺だよ、俺」 あんな「…おれおれさぎー?(・▽・)」 正樹の声「阿呆!俺だよ!正樹だよ」 あんな「……(間)…Σ(・◇・)きゃー!うそ!?正樹先輩ですか!?ほんとに!?きゃー!」 正樹の声「ちょ、声でか!耳痛いって!」 あんな「だってだって!正樹先輩でしょー!?お久しぶりです!元気でしたか!?」 正樹の声「まぁな。お前は相変わらず元気そうだな」 あんな「はい!ろんもち元気ですよ!それよりどうしたんですか?突然電話してくるなんて」 正樹の声「ああ…ちょっとな…原田先生に相談が…いや。…なぁ、あんな、約束覚えてるか?」 あんな「…え?」 正樹の声「約束だよ、約束。その…なんだ。…そろそろいけるかな…と思ってな」 あんな「…はい?」 正樹の声「…池袋で、一緒に暮らさないか?」 あんな「…え?」 正樹の声「武もいないし、いつまでも原田先生の世話になるわけにもいかんだろう。随分待たせちまったが、俺も一人でなんとか出来るようになった。だから俺が面倒みてやるよ。…嫌か?」 あんな「…いや?…いや…い、いやったー!やったどー!先輩と暮らすんだー!やったどぉー!」
受話器を投げて飛びはねる、あんな。
正樹の声「もしもし!?声が遠いぞ?あんな!?受話器とれ、受話器!もしもーし!?」
あんな、受話器を拾い上げ、
あんな「絶対ですよ!絶対ですからね!すっとんで行きますから待っててくださいよっ!」 正樹の声「おいおい、行くってどこへ行くつもりだ?住所わかんねえだろ?」 あんな「住所なんて後回しです。さぁー!支度するどー、わくわく」 正樹の声「…おーい。…うわぁ…お前全然変わってないなぁ…なんだか俺不安になってきたよ(汗)」 あんな「そんなことないですよー?私ちょっとは変わりましたよ?」 正樹の声「ほんとかー?どのへんが?」 あんな「(自分の髪をいじって)へへー、内緒でーす。会ったときに驚いて下さいね」 正樹の声「ほう、そいつは楽しみだな」
ブツ、ツーツ。
あんな「…あれ?切れちゃった?もしもし、もしもーし?」
あんなの後ろに正樹。
正樹「…あんな」 あんな「…え?あれ?正樹、先輩?どうしてここに?…あれ?」 正樹「…すまんな…やっぱり俺には約束、守れそうにない」
あんなを背にして去る正樹
あんな「…え、ちょ、まっ」
○中川時計店 店内(夜)
布団を上げ起き上がるあんな。店内から時計達の音が聞こえる。
あんな「先輩っ!待って!……あれっ?…夢、か…嫌な夢みちゃったなぁ…」
あんな、辺りを見渡し。
あんな「…あれ?…先輩……どこ?」
時計達が静かに鳴る。
(To be Continued…)
(*この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などにはいっさい関係ありません) |